車で毎日通る道を、歩く。隣の集落まで5~6km。歩いて初めて知る「あ、こんなところに私の好きな木」
電気も電波もなかった約120時間、自分の体と頭と心をよく頼りにした。
普段うっかりぽっかりぼんやりして宙ぶらりんだけど、意外と、体も心も丈夫なことに気づく。
ちょっと不便なぐらいがいい加減で心地よい。身の丈に合っている。
自信満々の人よりちょっと頼りないぐらいの人が気楽で付き合いやすい。
集落をつなぐ一本道。今日はどちらからも車が来ることはない。道路の真ん中に椅子置いてほるんしようかな、なんて。
台風一過の夕方に、一時の静寂。時代が50年前ぐらいさかのぼった感じ。
弱い西日の中、田んぼの柵を直していたら、ちょっと違う種類の風が私に呼びかける。
顔を上げると、「夕飯とりにおいで~」とちよこさん。「あんたらよう気張るのぅ」とまさおさん。プップ~とクラクションはまさるさん。栄養ドリンクを差し入れてくれる長老のきちぞうさん。
ここにはもういない人たちばかりが、まるでここにいるような。
安らかでひなびていて平穏で、天国か何かと錯覚する。
私はとことん土地が好きだ。暮らした地域も旅先で出会う所も。人と同じくらい好きになる。
でも、誰もいなくなってしまったら…相変わらずここに住み続けられるだろうか。
土地は人とともに、人も土地とともに、生きて、暮らす。
やがて、遠くから重機の音。もうじき道が開く。
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